*1:A gaping hole*

1.A labyrinth of under

<1>

気が付いたら真っ暗だった。
3人で真っ直ぐと進んでいた途中、足場がなくなって落ちた。
積もっていて、怪我はしていない。
「クソ・・・前が見えないぞ。」
アベルは手探りでライターを探し、点けた。
ポッと小さな明かりが闇を照らす。
穴は何処までも横に伸びていた。
「あれ?」
マリアは上を向きながら呟いた。
「どうした?」
「私達の落ちて来た穴は、何処?」
天井を照らせば分かるじゃないかと、アベルは火を掲げる。
しかし、隙間さえ見当たらない。
落ちて来たのだから、日の光も一緒に落ちて来るはずなのに。
「でも雪は積もってる・・・。」
「困ったなぁ、出られない。」
「出口を探すしかないわね・・・。」
その時、カランと何かがアベルの足に当たった。
懐中電灯だ。
「持ってきた。」
シグはそう言うと、そのまま黙った。
案外役に立つ奴だな。
アベルはシグを横目で見ながら、懐中電灯を点けた。
ライターは必要ない、ポケットにしまっておこう。


道は2つあった。
マリアは右に行きたいと言ったが、アベルが無理矢理左へ引っ張った。
シグは何も言わずに付いて来る。無愛想な奴だ。
くねくねと道は続く。
何度も分かれ道を歩いた。
5回目の分かれ道に出くわした頃。
「右ね、次は。」
「いや、人間皆右に行きたい本能がある。左だ。」
「さっきから出口に着かないじゃない!右!!」
「まだ遠いからだ!左!!」
5回目の口喧嘩。
子供の様に言い合う。
だから言う事が無くなると、黙ってしまった。
「・・・・。」
暫くしてから、傍観者が口を開いた。
「いや、右の方がいい。」
ほぅら。
そんな目でマリアはアベルを見る。
アベルは悔しそうにシグを見た。
「どうしてそう言える?」
「君達が五月蝿くしている間、風が右から来ている。」
確かに風が来ると言う事は、外に繋がっている事になる。
証拠があるのか、仕方がない。
アベルは渋々右へ光を遣った。
マリアはそれに導かれて、右へと走っていく。
穴を前にした時、マリアは笑顔をコチラに向けた。
「明かりが見える!」
「本当か?!」
「風も吹いてるよ!」
アベルとシグは急いだ。やっと出られるのだから。
      • が。
「何処にあるんだよ?」
右の穴は真っ暗のままだった。
風なんて吹いてこない。
「え・・・でもさっきまで・・・。」
マリアは狼狽し、後ろへさがった。
アベルは悪態をつきながら、”出口のあるという所”へ行ってみる。
行き止まり。蟻の入る隙間もない。
「何もない!!・・・雪は積もってるけど。」
光を雪に向けた。
シグは何も言わずにそこへ行き、何かを拾う。
そして、ソレをアベルに渡した。
石で出来た、四角い板だ。
手で拭うと、表面に2人の人間が刻まれている。
「なんだこれ・・・?」
念の為、ソレを大切にリュックにしまった。
「まぁ、間違えはよくある。次へ行くか。」
マリアは間違えていないという顔をしたが、無い事は事実なので従った。


<2>

それからは全て、アベルが道を決めた。
クネクネ道は上がったり下がったり。
着実に体力を削ってくる。
随分経った。
足が棒になってくる…。
「風?」
一番前を歩いていたアベルが止まった。
顔に心地よい風が当たる。
風が…来ている!
「コッチだ!」
嬉しさの余り、二人を残して走った。
光が…日光が差している!!
「おい、早く!」
「ちょっ…何で走るの?」
息を切らしながらマリアが来る。
シグは大股で近付いた。
「ナゼって、出口が!」
アベルは奥を指した。
指の先には光が…なかった。
「どこに?」
怪訝そうな目がアベルを見る。
アベル自身はとてつもなく驚いた。
「そこに・・・。」
「さっきと同じ現象だろう。雪が積もっている。」
シグはアベルに雪の方へと光を向けるよう、指示した。
そしてそこに跪く。
暫くは沈黙が流れた。
「・・・コレを見ろ。」
シグは何かを指でなぞった。
荒く削られた文字が、塞いでいる壁に刻まれている。
『この洞窟に来て1週間
食料は後3日
 ココから生きて出られるのか?
 出口はこの真上にあったのだが
どうやって出るのか考えている内に消えた
跡形も無く
出口はこの他6箇所見つけたが
どれも竪穴で 考えないと脱出は無理だろう
ジッとはしてくれないし・・・
私は・・・石・・・めてみた』
最後が擦れて読めない。
「6箇所・・・ココも含めて、後3箇所か。」
マリアがメモする隣で、アベルはもう一度読み返した。
「最後まで一応書いておくわ。」
「あ、お願い。」
考え込んだ。
この広い巣穴の中、動き続ける穴に果たして又会えるか?
無くなる前に下へ辿り着けるか?
着けたとしても、どうやって出る?
「ここで待つか?」
シグが天井を向きながら問いかける。
「いや、俺達には食料がほぼ無い。いつココに戻るか分からないのに待つのは無駄。」
「得策だ。」
アベルには良く見えなかったが、シグが笑ったような気がした。
マリアが書き終える。
メモをポケットにしまいながら、何かを差し出した。
「拾ったわ。何か彫られてる。」
先程の石版と同じサイズだが、彫られている絵が天秤。
少し欠けてはいるが、別段と変わったところは無い。
アベルはコレも大事にしまった。
マリアが「じゃ、次へ行きましょう」と言ってアベルの背を押す。
シグはそれを見ながら後を追った。
一言呟いて。
「この人、光を見る事が出来なかっただろうな。」
      • 分からない男だ。


<3>

予想以上に洞窟は広く、道に迷わない様に地図を書いた。
コンパスが正常に使えて、ありがたい。
書いてみると、同じ所を歩いているのが良く分かった。

「結構体力を使ったな。」
最初に落ちてきた場所へ戻ってきた。
マリアはその場にへたり、水を飲んでいる。
シグは立ったままだったが、思い出したように、何かをアベルに突き出した。
「…ボウガン?」
「何かしら武器は必要だ。自分の身は自分で守れ。」
古びたボウガンとその矢10本が渡された。
余計なお世話とは思ったが、まぁいい。
貰って損はしないだろう。
それらを出しやすい所にしまい、懐中電灯を右に向けた。
「こっちには行ってないな。」
電池が心配だが、光はきちんと照らす。
と、右の入り口辺りに不自然な岩を見付けた。
アベルは懐中電灯を座っているマリアに渡し、ライターと共に岩へ近付く。
岩には人工的に開けられた穴が四つ、その近くの床には字が彫られていた。

『待った。
 私は待ったのだ。
 錆びて動かなくなるまで
 裁くその日を待ったのだ。』

『人は神の子。
 生きる術は得ている。
 ただ敵わない。
 例え知恵や力があろうとも。』

『能で負けた王は
 射たれその場で息絶えた。
 金に輝くそれはもう
 死体を飾る装飾品。』

『神の子にあらず
 獣にあらず。
 駆ける姿は
 風の如く。』

出られるヒントかもしれない。
ライターを側に置き、メモを取る。
穴は石板と同じ大きさだから、あと2枚か…。
「グズグズもしてられない、石板はまだあるらしいし。」
紙をポケットに入れながら振り返った。
マリアが何か見付けたらしく、地面を手で払っている。
「これってカセットテープ?」
そこには白いカセットテープが埋もれていた。
ラベルには何も書かれていない。
「テープがあっても、聞く物がなきゃなぁ。」
テープはマリアが持つ事にし、アベルが岩の話をした後、一行は次へと急いだ。


<4>

行き止まりを見付けた。
雪は積もっていない。
「ここは違うな。」
光を前方に戻し、そこには入らなかった。


北へ東へ南へ西へと、穴は好き勝手に伸びている。
地図はなかなか埋まってくれない。
「ここは通ったね。じゃあ、次は左?」
左へと足を向ける。
すると、久々に風を感じた。
「風だ…風が来ている!」
アベルだけでなく他の二人も感じたのか、目を合わせ、そして駆け出す。
次を右、次は左。
パッと目がくらむ様な光が頭上から差した。
青空が見える!
「やった、出口だ!…でも、どうやって出る?」
肩車じゃ届かないし、蔦の様な物…
「ロープがある!俺の鞄の中だ!」
アベルが急いでロープを出した。
ロープの先には固定用のフックがある。
一か八かだ。
「本来、こういう使い方ではないが…。」
穴の外へフックを投げ、たぐり寄せた時に何かに引っ掛かるのを待った。
「お願いだ…岩でも何でもいいから!」
三度目だろうか。
フックが音と共に止まった。
ロープがピンと張る。「よし、OKだ!」
「早くしないと…穴が小さくなってる!」
かなりの大きさだった穴が、大人二人がやっと位に縮んでしまった。
「一番軽いマリアが行け!」
「え…でも二人は?!」
「チャンスは幾らでもあるから、早く!」
アベルは穴を見上げた。
どんどん小さく…


ロープが緩んだ。


ガッチリと引っ掛かっていたのに。
スルスルと流れる様に落ちる。
三人は唖然とその光景を眺めた。
そして、新鮮な日光は三人に別れを告げた。

「ありえない!!綺麗に斬られてる!」
斜めの切口を残したロープを見ながら、アベルはうめいた。
「自然界じゃ有り得ない切れ方ね。」
マリアは雪の中から石板を拾い、アベルに手渡しながら言う。
石板の中で獅子が吠えている。
又一枚手にしたのだから、喜ぶべきだろう。
だが、ショックが強すぎる。
「一筋縄じゃ出してくれない…か。」
周りを調べながらシグが呟いた。
もう気になる物はない。
先を急ごう。


<5>

まだ進んでいない道を歩く。
時間の感覚がない。
暫くしてから入り口の塞がれた道へ来たが、塞いでいる木が大分腐敗していたので壊して進む。
前が急に開け、そこには広い空間が据わっていた。
完全に行き止まりなので、最北の地となる。「北はここで終りだな。」
天井の崩れた穴からは日光が覗いているが、高すぎて何をしても届かない。
「お疲れ様。」
マリアは懐中電灯を切った。
人工的に作り出されたのか、切り出された様に四角い石が26個、行儀よく並んでいる。
良く見るとアルファベットが一文字ずつ刻まれていた。
その先に階段があり、更にその奥には磨かれた台がある。
「表面に何か書かれている。」
シグはマリアとアベルを呼び、それを読み上げた。

『二十六の民 王の褒美を待つ
 しかし褒美を貰えたのは
 民の中の五人だけ
 最高級の者
 古き数学者は五がお好き
 一番だと偽った者
 いつでも王に賛成する者
 三日月の如く綺麗な者
 残りの民は捨てられた
 民の重さはそれぞれ違う
 裏切り者を処刑しろ!』

「つまり、あの中から5つ選んで持ってこいと。」
アベルは遠くから石を眺めた。
アルファベット達はただ待っている。
「どれを乗せればいいの?」
石達の前でマリアが頭を抱えた。
こんな事、しなくてもいいのではないか?
しかし、もしかしたらこれで出れるかもしれない。
今は何が来ようと、激励するしかない。
「Aが一番軽くて、Zが一番重い…こんな事しても、手掛りにならないか。」
持ち上げた石を元に戻しながらマリアが言う。
全部で五人。
~者という記述がヒントだろう。
「"王に賛成した"って、"Approval"のAかしら?」
「いや、考えに賛成しているなら"Favor"のFかも。…単語で考えない方がいいな。」
三人は暫く、静寂を守る石達と睨み合った。


時間が刻々と過ぎていく。
「……あ。」
下まで下り、しゃがんで良く見る。
文章と合うアルファベットは5つ。
「分かった、分かった。」
アベルは必要な石を近くに居たマリアに教え、運ぶ。
今まで黙って手伝っていたマリアは最後、初めてアベルに聞いた。
「何でこの5つなの?」
最後に運んでいる"V"は案外重く、マリアが階段の途中に置いた。「Vはギリシャ数字の5を示す。残りの石は…」
既に台上へと運ばれた石を各々指しながら、アベルが解説を始めた。
「AはA級、つまり最上級を表す。
 Iは数字の1に似てるだろ?
 Oは丸を描いて"賛成"を言う。
 Cは少しづつ太くすると…」
「三日月に見える!凄いわね。」
置いた石がシグによって運ばれるの見ながら、誉める。
これで5つ。仲良く台の上で正座した。
「で、何があるんだ?」

ガコン
何処かでそんな音が響いてきた。
それと共に低い地鳴りもする。
「何か来た!?」
三人は正面を向いた。眼前で頭が二つの獣が睨んでいる。
狼というか、熊というか…。簡単に言ったら怪物だ。
「下がれ!!」
シグは二人に怒鳴ると、猟銃を構えた。
アベルはマリアを階段の下へと連れていく。
後ろで銃声がした。
怪物のうめき声もする。
「マリアはここに居てくれ。」
銃声に負けないよう大声で言い、ボウガンを掴んで階段を駆け上がった。
シグが怪物に弾を向けてはいるが、急所に当たらない。
「シグ!」
「下がってろ!」
悪態をつきながらシグは一心に戦っている。
アベルは嫌悪を覚えたが、怪物を良く見た。
足に射てば動きずらくなるな。
いや、目が一番効果的だ。
胴体は絶対無理だな。
「ぅを!」
異様に長い尻尾が襲う。
しかし良く見ていたお陰で巧くかわした。
怪物はシグにのしかかろうと、後ろ足で立ち上がった。
今だ!!
アベルが後ろ足めがけて射つ。
矢は命中し、怪物は吠える。
そしてこちらへ来た。
すかさずシグが胴体を撃つ。
怪物は狂ったように怒り、シグへ迫った。
流石のシグも驚き、身を引く。
「危な…!」
「やあぁぁぁ!!」
若い女の声が広場に響いた。
次に怪物の体が無理矢理裂ける。
シグとアベルが息を飲んだ。
スローモーションの様に時が流れる。
最後にはマリアの荒い息だけが残った。
「…っ一番重いの投げちゃった。」


<6>

『Z』と書かれた石は、見事に傷口へとめり込んでいた。
怪物でもこうなると哀れだ。
「見事だな。」
アベルはマリアに感動と恐怖の入り混じった声で褒めた。
本人はシグの手当てをしながら、恥ずかしそうに下を向く。
しんと静まり返った広間に、血の臭いが溢れる。
息苦しく、少しばかり目眩もや吐き気もしてきた。
一体何なんだ、こいつは?
シグはいきなり銃を床に叩き付けた。
「何であの時、足手纏いに来たんだ?」
どう考えてもアベルに質問している。
「それは・・・お前だけだと、心配だからだ。」
実は嘘。
男でありながら女と逃げるのは、どうも負け犬の様な気がした。
それに、シグに負けた感じもする。
「は、素人に心配されるなんてな。」
「ふん。でも結局マリアがいなけりゃ、助からなかったんじゃ?」
シグの鋭い目がアベルを睨む。
アベルも負けじと睨み返す。
暫くは怖い程の沈黙が続いた。
「あ、あのさ、あそこになんだか通路みたいなのがあるよ?」
耐えかねたマリアが奥を指差す。
溜息をついて歩き出すと、シグはアベルから目を離した。


怪物はココから現れたらしい。
壁だった一部が上がり、通路が顕になっていた。
光が入らず真っ暗だ。
「懐中電灯。」
アベルは貰った明かりで照らし出した。
奥にはあまり続いておらず、通路というより『部屋』と言った方が無難かも知れない。
そこらじゅうに銃器が散乱している。
「喰われた奴らの・・・だろうな。」
この先の事を考えて、まだ使えそうなものを選んでおこう。
ハンドガンを二丁手にし、弾も集める。
集めている内に、銃器の中から石板を見つけた。
コレで4枚に。
4枚目は弓を構える人馬が居た。
少しだけ希望が見え、喜ぶ。
さてもう出ようかと思った時、ふと奥の機械が気になった。
まだ使えそうなラジカセで、電池も入っている。
「マリア、さっきのテープあるか?」
ラジカセを持ち出し、受け取ったテープを入れる。
そして再生を押した。
初めはガガガっと雑音だけで何も聞こえなかったが、中盤で男の声が紛れ込んできた。
「落ちた衝撃で・・・・コンパスも破損・・・通じない・・・・・
ピー・・・
出口を求めて何日経っただろ・・・・い長は石の板を・・・・仲間が一人餓死して・・・
ピー・・・
今日は録音4日目・・・・石板・・はめてみた隊員・・・間違えて死んだ・・・。
ピー・・・
大きな広間に来た・・・日光が久しい・・・仲間が石を並べて遊ん・・・・ガッ。」
何かが引きちぎれる音がした後、テープは音を立てて止まった。
再生を押しても、もう動かない。
「テープは誰があそこに運んだのか・・・」
シグが呟いた。
「石板をはめ間違えると死ぬの?」
最後の音が気になるのか、ビクビクしながらマリアは聞く。
      • だろうな
アベルも恐怖に襲われたが、現実を認めようと必死になった。
ラジカセとこの場所にもう用は無い。
ここに戻る必要も無いだろう。


<7>

地図は真っ直ぐにあの場所へと、導いてくれた。
懐中電灯はもうすぐ電池が切れる。
「ライターに変えよう。」
アベルは四つの穴を炎で照らして、対面した。
ライターもそう長くはもたない。
炎をマリアに渡し、丁寧に石板を出す。
天秤、双子、獅子、人馬。
四枚は手に入れた時のまま、それぞれ待っていた。
「出れるのね…多分。」
「間違えなければね。」
全員の喉が鳴る。
脳裏には聞いたばかりの声と音が流れた。
一呼吸し、アベルは良く穴を見た。
穴は2×2で、それぞれの形をしている。
左上の穴にはUと小さく掘られている。
右上は特に何もなく、自然だ。
左下は崩れかけ、右下は…
「ん?」
明かりに照らされ何かが光ったが、
調べても光る物は埋まっていない。
もう一度チラチラ照らすと、確かに光る。
「砂鉄が散らばっているんだろう?」
何度も穴を調べるシグにイライラしながら言った。
再度、アベルが穴を前にする。
そしてメモを取り挙げ、石板に手を伸ばした。

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最終更新:2016年03月27日 18:59