Z2スタッフインタビュー

※この資料はインターネットアーカイブからサルベージし。過去のBBガイドに掲載されたスタッフインタビューです。


ネット上にはアマチュアの製作したゲームが数多く無料で配布されているが、その中には家庭用ゲームに勝るとも劣らないレベルの作品が数多く存在する。『ゾウディアック』もその1つ。製作総指揮の陽炎氏の呼びかけをきっかけに有志たちが集まって製作されたこのゲームは、公開以来10万以上のダウンロード数を記録。続編が製作されるまでになった。
いわくありげな研究所や洋館を舞台に、ホラーテイストで進行するアドベンチャーゲーム。選択肢を選びながら物語を読み進めていくサウンドノベル形式で進行する。さまざまなヒントを元にアイテムの使い方を推理したり、入り組んだ洞窟を探索したりと、随所に盛り込まれた謎解きは手応え十分。ゾンビやモンスターとの戦闘もスリル感タップリだ。不気味な血文字や怪しげなギロチンなど小道具も凝っていて、とびきりのサスペンス感覚を楽しめる。
ゲーム製作の素人たちが、これだけの作品をいかに作り上げたのか? 製作スタッフのタキケンことタキケン健太郎氏とアマゾニア氏の2人に、完成までの紆余曲折を直撃した。

海外在住の総指揮と掲示板で打ち合わせ
気楽に始めた『ゾウディアック』製作

BBガイド「『ゾウディアック』製作に参加したきっかけは?」

タキケン「2001年の12月に「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」というホームページで、製作総指揮の陽炎さんがゲーム製作のスタッフ募集を出したんです。サウンドノベルで『バイオハザード』や『サイレントヒル』のようなホラーアドベンチャーを作ろうと。私は昔からゲームを作ることに憧れていましたが、スキルがなかったんです。大学の専攻もゲーム製作とはまったく関係がありませんし。そんな自分でもゲームが作れるんだと思ったら、飛びついてしまったわけです。最初に集まったのは陽炎さんと私を含めて4人。まったく人手が足りなくて、どうしたらいいんだというところから始まりました。」

アマゾニア「僕は途中というか詰めの段階からです。本当は最初から参加したかったんですが、そのとき自宅にネットの環境が無かったんです。大学が空いているときしか協力できないので、迷惑をかけるだけだと思ってあきらめて。遊ぶだけでいいやと思っていたんですけど、自宅がネットに繋がったのをきっかけに参加を決めました。で、そのままズルズルと。」

BBガイド「陽炎さんは海外在住ということですが、製作はどのような形で進められたのですか?」

タキケン「まず、スタッフオンリーの打ち合わせ用掲示板を設置しました。そこに陽炎さんが「こんなモノを作ってみたんだけど」というものをアップするわけです。で、我々がダウンロードして、意見やら直しやらネタやらを掲示板に書き込んでいく。陽炎さんがそれを見て、また作り直す。これが一番初期の形です。ゆっくりしたものでしたし、世間話も多かったですね。ただ、これではやはり情報のやり取りに時間がかかるので、ICQを用いてスタッフ同士チャットで打ち合わせることにしました。」

BBガイド「かなりの手間だったと思うのですが、製作期間と製作費を教えて下さい。」

タキケン「9ヶ月くらいです。ただ、その前の段階で総指揮がすでにちょこちょこ作っていたので、彼が構想し始めた段階を含めると1年以上だと思います。」

アマゾニア「製作費は陽炎さんが購入したデジカメ代くらいじゃないでしょうか。後は電気代と通信代だけです。」

タキケン「最初は気楽なものだったんです。みんなでゲームを作りながらワイワイやろうと。ホームページに来る人たちで楽しもうという程度でしたから、ここまでの作品になるとは思っていなかった部分はありますね。」

苦痛、ストレス、逃避願望
ゲーム製作のキモは根性とタフさと知る

BBガイド「製作過程ではどんなトラブルがありましたか?」

タキケン「背景に写真を使用したんですが、これが限られたものしかなかったんです。例えばゲームの序盤に夏の背景写真が登場して、次に画面が切り替わるとなぜか秋の背景になっているところがあるんですが、ほかに使える写真がなかったからなんです。それで陽炎さんとアタマを悩ませた結果、シナリオの中でムリヤリ季節を変えて辻褄を合わせることに。普通はシナリオに合わせて映像を作っていくと思うんですけど、映像に合わせてシナリオをひねり出していったわけです。」

アマゾニア「ラスト担当のスタッフたちが途中で参加できなくなったということもありました。中学3年で受験だったんですよ。それでイラストが足りなくなったんですが、残った人たちには絵心なんかない。結局、シルエットでごまかしたんです。」
タキケン「でも、一番は移植作業ですね。『ゾウディアック』はフリーのサウンドノベル製作ツールで作ったんですが、さまざまな事情で2回ツールを変更しているんです。この移植作業で大変苦労しました。一度作ったものを新しいツール用に書き直していくという単純作業を非常に苦痛に感じてしまって。それに移植の過程では当然バグが出てくる。」

『ZODIAC』謎と恐怖が次々と襲いかかる、サスペンス感覚あふれるホラーゲーム。

バグとは、ゲームが止まったり、セーブできなくなるなど、ゲーム進行中に発生する不具合のこと。そして、さまざまなバグを発見していく作業が「デバック」だ。バグは思わぬことで発生するため、デバックではゲームを何度も繰り返しプレイする必要がある。さらに1つのバグを解消したことで、新たに別のバグが生じることもあるなど、非常に時間と労力のかかる作業なのだ。

アマゾニア「そうしたバグを潰していくのは気の遠くなるような作業で、バグ恐怖症になりました。初期の頃は毎日バージョンアップを繰り返していたくらいです。ユーザーさんからの指摘で気づいたバグも多かったですね。そういう意味ではユーザーさんが最大のデバッカーでした。無料ゲームだからといって許されるわけじゃないんですが、ユーザーさんと一緒に育っていったということでお許しいただきたいと。」

BBガイド「さまざまな謎解きが盛り込まれていますが、謎を考えるうえで大変だったことは?」

タキケン「こちらとしては謎が解けたときに「なるほど!」と納得してもらえるものにしたいわけです。ほどほどに悩んでもらって、解けたときに面白いと思ってもらいたいと。でも、作っている内に簡単に解かれると悔しいという心理が働いてくるんですかね。まわりから指摘されるまで、自分の考えた謎がとんでもなく難しいことに気がつかなくなっちゃうんです。」

アマゾニア「製作に関わることになったとき、誰でも解けるように注意して考えて下さいと言われましたが、それでも自分本位になってしまうことがよくあるんです。このさじ加減が難しいですね。」

タキケン「戦闘の難易度調整も同様です。例えば最後の敵と戦う部分は私の担当だったんですが、スタッフから「勝てない」と言われてしまいました。ウソだろうと思ったら自分でも勝てないんです(笑)。完璧に戦えば勝てるけど、負ける要素もある。カンタンすぎても難しすぎてもダメ。この調整に苦労しました。そんなわけで最初は楽しいんですけど、作っていく内にだんだん苦痛になるわけです。やがてストレスになって、もう作りたくないという感情になってしまう。しかも、ボランティアで報酬もないわけですから、モチベーションが維持できない。締め切りという概念もないですしね。自分にプレッシャーをかけないと作業が進んでいかないんです。実際、いつのまにかいなくなったスタッフも結構いましたし、私も相当悩みました。そこで踏ん張れる根性やタフさが要求されましたね。それだけに、やり遂げた喜びも大きいですよ。」

BBガイド「ゲームの難易度に対して、ユーザーからどんな反応がありましたか?」
タキケン「私が担当した部分なんですが、ヒントがあいまいで分かりにくいという意見を結構頂きました。厳しいというか、やはりユーザーさんは鋭いですね。」

アマゾニア「こちらの意図したこととまったく違った解釈をされる方もけっこういるわけです。勘違いされやすいヒントではダメなんですよね。これは大きな反省点です。やはりユーザーさんの意見は参考になります。」

『ゾウディアック2』体験版ついに完成、有能なスタッフたちの参加に感謝。

 現在、公式ホームページでは『ゾウディアック2』(以下『2』)の体験版を公開中。「前作でできなかったことを、たくさん盛り込んでいます」とタキケン氏が語る通り、『2』には難易度の調整やパートナーとの協力戦闘、重要情報の記録など、前作になかったさまざまな要素が取り入れられている。さらにグラフィックやシナリオも大幅パワーアップ。よりボリュームを増した『2』に、ホームページを訪れるファンの期待も高まっているという。

BBガイド「現在『2』を製作中ということですが、公開の時期は?」

タキケン「う~ん、ぜんぜん完成間近ではないですね。当初の目標は今年の上半期だったんですが、それが下半期になって。結局、とりあえず体験版を公開ということになったんです。」

アマゾニア「市販のゲームで発売延期とかよくありますけど、実際作ってみると、もう文句を言えなくなくなりました。」

タキケン「前作も2回遅れて私が謝罪文を書いたんですが、あの時はまったく注目されていない作品だったんで多少は気が楽でした。今回はありがたいことに前作を気に入って下さった方々が、さまざまな期待を寄せてくれています。プレッシャーはありますが、原動力にもなっています。」

BBガイド「『2』にはどんなスタッフが参加されているんですか?」

アマゾニア「スタッフには恵まれました。イラストを描いてくれる人を募集したら、今度は応募が殺到したんです。20人くらいだったでしょうか。全員に頼むわけにもいかないので、テストとしてこちらが指定した絵を描いてもらうことにしました。申し訳なかったんですけど、そうしないと収拾がつかなかったんです。ところが、尻込みしちゃったのか、返ってきたのは1通だけ(笑)。それで常時募集することにしたんですが、イラスト専門のプロの方が人物画を手がけてくれることになって。」

タキケン「背景を描いてくれる人は、最初はなかなか集まりませんでした。背景は一番バリエーションが必要だし、雰囲気作りの点でも重要なんですが。また写真でなんとかするしかないのかと、絶望的になりました。でも、今は3人も参加してくれていますし、いずれ劣らぬ腕の持ち主です。写真に劣らぬ絵が作れると確信しています。音楽の方もディズニーシーでトロンボーンを吹いている方が作曲を担当して下さることになったんです。なんでこんなスゴい人が志願してくれたんだろうと思いましたよ。お金はまったく払えないのに(笑)。」

BBガイド「ちなみに今回のゲーム容量はどのくらいでしょう?」

タキケン「完成している分だけで、すでに20MBを超えちゃってます。体験版で9MBくらいでしょうか。今回はブロードバンドじゃないとダウンロードするのが大変になるでしょう。ナローの方もいるでしょうから、ちょっと心苦しいところなんですけど。」


“自己満足”がフリーゲーム製作の醍醐味、いずれはプロのゲームクリエイタに。

BBガイド「ところで現在は無料で公開していますが、シェアウェアにする気はありませんか?」

タキケン「その気はないです。作りたいものを好きに作って楽しんでいるだけですから。究極的に言ってしまえば、自分たちが満足できればいいわけです。でも、金銭が関わってきますと、まずユーザーさんの望むものを第一に考えなければならない。そうでなければ、お金を取ってはいけないでしょう。」

アマゾニア「自己満足の結果、みなさんにも楽しんでもらえたらいいんじゃないかと。完成しただけで満足なんです。それで感想とか叱咤激励とかいただければもう十分うれしいですね。プレイしてくれたんだと。陽炎さんをはじめ、スタッフ全員同じ気持ちじゃないでしょうか」

BBガイド「アマチュアという立場でゲームを制作しているわけですが、将来プロになろうという気は?」

タキケン「私はあります。ゲーム製作会社にプランナーとして入ってみたいという野望が出てきちゃったんです。現在就職活動中で、いまだ実現していませんが(笑)。教授の方からは院に行ったらどうだと言われています。でも、どちらにころんだとしても、ゲームは作り続けていきたいと思っています。ネットで自分が作ったものを見てもらえるという環境もあるわけですし。」

アマゾニア「僕はゲームではありませんが、プログラム関係の仕事に就職が決まっています。やはりゲーム制作に触発された面はありましたね。情報関係の仕事に就きたいという。そういう意味では人生を左右したゲームです。就職した後もゲームを作り続けるつもりですよ。作る楽しみを知っちゃいましたから、もうハマっちゃいましたね」

※この取材は2003年夏に行われました。ご了承下さい。

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最終更新:2012年10月05日 20:42